「疲れてスマホはかり見てしまうあなたへ」という帯のキャッチコピーにつられて”なぜ働いていると本が読めなくなるのか”という本を購入しました。
筆者は文芸評論家の三宅香帆さん。
まだお若いのに、参考にされている文献の多さと斬新な切り口は素晴らしいですね。
文章のボリュームもちょうどよく、スムーズに読むことができました。
“なぜ働いていると本が読めなくなるのか”では、明治から現代までの労働と読書の歴史を紐解きながら、日本人の「仕事と読書」のあり方から今後の働き方に関する筆者の展望が語られています。
全身全霊で仕事に取り組むことが美学とされている日本の働き方をもっと余裕を持って”半身”で働くべきという部分には大いに賛成ですね。
最終章で語られている、
“仕事は所詮仕事。“
“仕事ができなくなっても、自分を否定しないよう”
“仕事に人生を奪われない”
という部分は毎日の就業間近に残業しそうになる自分に言い聞かせたいです。
なぜ本を読めなくなるのか?
本のタイトル、
なぜ働いていると本が読めなくなるのか?
については、下記の通り結論づけられています。
自分から遠く離れた文脈に触れること一それが読書なのである。
仕事以外の文脈を、取り入れる余裕がなくなるからだ。
この”なぜ働いていると本が読めなくなるのか”で唯一太字になっているのがこの2つの文でした。
2000年代以降、新自由主義的思想の内面化によって自己決定、自己責任、個人主義の風潮が強くなる。
自己啓発本の流行は、そういった風潮から流行したものであると考えられると。
確かに自分もそういう本ばっかり読んでる。まさに2000年代に読書をしていた人間には腑に落ちる部分でした。
新たな気付きとして、総じて自己啓発本は自分の中で変えられるについて書かれていて、世界や日本の枠組みに対する話はアンコントローラブルなものとして扱われていること。
労働組合でアレコレと活動をやっているから”自分の行動で政治にも影響を与えることができる”と思えるようになりましたが、現代社会で過ごしている多くの人が、
“どうせ何をやっても大枠の部分は変わらない。”
という人が多いように感じるし、あくまで社会や市場のルールに乗っ取ってどう生きていくかと考えている人が多いように感じます。
世代や自分の職場以外の人と交流しているおかげで”社会を変えられるかもしれない”と思えることは、恵まれていることなのかもしれないという気付きを得ることができました。
読書とはノイズである
もう一つ大きな学びは”読書とはノイズである。”ということ。
なぜ私は(多分他の人もだと思いますが)スマホをいじると止まらなくなるのか?
本書ではスマホアプリはコントローラブルな娯楽で知らないノイズが入らないからと論じられています。
アンコントローラブルな社会は、個人にとって除去すベきノイズ。
読書は未知を取り入れる、アンコントローラブルなエンタメ。
つまりは自分から遠く離れた文脈に触れること。
だから読書ではなくスマホに手が伸びてしまうと。なるほど納得である。
読書によって生まれる知の偶然性こそ、倫理や教養の高さに繋がり人生に深みが出る要因になるのかなぁと読んでいて感じましたね。
持論ですが、音楽でも、一つのジャンルを延々と聴いてた人が作るそのジャンルの曲って深みが無く感じます。
色々なジャンルの、色々な曲を聴くことで音楽性に深みが出て面白い曲ができるんじゃないかと。
自分の聴きたいもの以外のものを聴くことで新しい自分の聴きたいものが見つかる。
そういったことが読書でもなんでも起こりえるということは大きな気付きでしたね。
インターネットで検索すれば知りたいことはすぐ知ることができる。
ただ、その情報にどのような過去の経緯があって、どんな要因が絡んでいるのかを知るのはインターネットだと自分の興味のあるところや自分の支持する考えのものがまず表示されちゃうんですよね。
検索ってそういう風に最適化されてますし。
ただ、読書だと最適化されていないアンコントローラブルな物になる。
最適化されていないノイズの多い情報=知識という本書の論説は、読書の魅力がそこにあるということを教えてくれた気がします。
あと、改めて歴史から紐解くことの重要性も感じましたね。
物事を多角的に、点ではなく面で捉え、知的複眼思考を持ってすごそうと思います。
やはり、人生には余白が必要だ。
なんにせ、最適化されてないノイズの多い情報を読みとくことにはエネルギーがいります。
本書でも「読書できない時は、無理せず休む。」とありますし。
現代日本は自分がどれだけ頑張って”頑張らない”ようにしようとしても「頑張りすぎたくなってしまう社会」で、疲労に気づかないふりをしてしまうようになっている。
なるべく自分の人生に余白を持って暮らしていきたいなぁと、
その上で読書を楽しんでいきたいなぁと思わせてくれる一冊でした。
読書法のおススメにあった帰宅途中のカフェ読書、たまにやってみようと思います。